鉛蓄電池の中では何が起きている? – 仕組みを知れば寿命が見えてくる

はじめに

皆さんこんにちは!
「半日も持たない……」
「まだ3年しか使っていないのに、もう交換?」

フォークリフトの現場では、バッテリーに対してこんな声をよく耳にします。

実は、黒い箱のように見えるバッテリーの中では、“化学反応”によって電気を取り出したり、蓄えたりしています。
この仕組みを少し理解するだけで、「なぜ劣化するのか」「どうすれば長持ちするのか」が見えてきます。

この記事のポイント

この記事では以下のポイントを解説します。

  • 鉛蓄電池の中では「化学反応」によって電気を出し入れしている
  • サルフェーション(硫酸鉛の結晶化)が寿命を縮める最大の原因
  • 過放電・充電サイクルによってサルフェーションを加速させる
  • 充電タイミングと補水管理の徹底で、寿命は2倍以上に延ばせる
  • バッテリーを“消耗品”でなく“資産”として管理する意識が重要

「バッテリーがすぐ減る」「最近充電時間が長い」と感じたら、それは“バッテリー内部における化学反応”のSOSです。
放電・充電・補水の基本を守るだけで、貴社の現場の稼働率・コストは大きく変わります

鉛蓄電池はどんな電池?

鉛蓄電池は150年以上の歴史を持つ最も古い二次電池(=繰り返し充電できる電池)です。
内部はとてもシンプルで、3つの要素で構成されています。

  • 負極:鉛(Pb)
  • 正極:二酸化鉛(PbO₂)
  • 電解液:希硫酸(H₂SO₄)

これらが反応し合うことで、取り出したり、電気を蓄えたりしています。

鉛蓄電池は、フォークリフトやEPS(非常用電源装置)、自動車など、高出力で安定した電力を必要とする機器に広く使われています。
一方で、使い方によって寿命が大きく変わるという特徴があります。
適切に運用すれば長く使えますが、誤った扱いを続けると急激に劣化してしまいます。

よくある誤った使い方とその影響

現場でよく見られるトラブルの多くは、次のような”誤った運用”が原因です。

  • ギリギリまで使ってから充電する(→過放電で劣化が進行)
  • 充電の間隔が長すぎる(→サルフェーションが形成される)
  • 補水を怠る(→電極板が露出し、焼き焦げる)

これらはいずれも、寿命を半減させる原因となります。
裏を返せば、「正しい充電・補水・管理」を行うだけで、寿命を2倍以上に延ばすことも可能です。

放電時の化学反応

化学式:PbO₂ + 2H₂SO₄ + Pb → 2PbSO₄ + 2H₂O

  • フォークリフトを動かしているとき、バッテリーは「放電」しています。
  • 放電とは、化学反応によって電子が負極から正極に流れ、電気エネルギーを生み出す過程のことです。

負極での反応

化学式:Pb + SO₄²⁻ → PbSO₄ + 2e⁻

  • 鉛(Pb)は、電解液中の硫酸イオン(SO₄²⁻)と反応して硫酸鉛(PbSO₄)を生成します。
  • このとき、鉛は電子(e⁻)を放出し、導線を通って正極に流れます。

正極での反応

化学式:PbO₂ + 4H⁺ + SO₄²⁻ + 2e⁻→ PbSO₄ + 2H₂O

  • 二酸化鉛(PbO₂)は、電解液中の水素イオン(H⁺)と硫酸イオン(SO₄²⁻)、そして負極から流れてきた電子(e⁻)と反応し、硫酸鉛(PbSO₄)と水(H₂O)を生成します。

このように、放電が進むにつれて、両極板に硫酸鉛が生成されます。
負極から正極へ電子が流れることで電流が生まれ、その電気がフォークリフトを動かしています。

充電時の化学反応

化学式:2PbSO₄ + 2H₂O → PbO₂ + 2H₂SO₄ + Pb

  • 充電を行うと、放電時とは逆方向の化学反応が進みます。
  • 外部の充電器から電力を与えることで、極板に付着した硫酸鉛が分解され、元の鉛と二酸化鉛に戻ります。

正極での反応

化学式:PbSO₄ + 2H₂O → PbO₂ + 4H⁺ + SO4²⁻ + 2e⁻

  • 硫酸鉛(PbSO₄)が水(H₂O)と反応して、二酸化鉛(PbO₂)に戻ります。
  • このとき、水素イオン(H⁺)と硫酸イオン(SO₄²⁻)が発生します。
  • このとき、二酸化鉛は電子(e⁻)を放出し、導線を通って負極に流れます。

負極での反応

化学式:PbSO₄ + 2e⁻ → Pb + SO₄²⁻

  • 電子(e⁻)を受け取った硫酸鉛(PbSO₄)が分解され、鉛(Pb)と硫酸イオン(SO₄²⁻)に戻ります。

このように、充電をかけることで、両極板に付着した硫酸鉛が分解され、硫酸イオンが元の状態に戻る仕組みです。
この充放電のサイクルを通じて電気エネルギーを蓄積・供給することができます。

寿命を縮める犯人「サルフェーション」とは?

鉛蓄電池の寿命を縮める最大の原因が、「サルフェーション」と呼ばれる現象です。
サルフェーションとは、硫酸鉛(PbSO₄)が結晶として電極板に固着してしまうことを指します。

本来、放電で生じた硫酸鉛は充電によってで分解され、鉛や二酸化鉛に戻ります。
しかし、以下のような使い方をすると、この硫酸鉛が固く結晶化してしまい、電気を通さなくなります。

  • 残量25%以下を使う(過放電)
  • 5日以上充電せずに放置する

一度結晶化してしまうと、通常の充電では分解できず、反応に関与しない「絶縁物」として残ります。
その結果、電極の有効面積が減少し、蓄えられる電気の量がどんどん少なくなっていきます。
最終的には「充電しても電気を貯められない=使えないバッテリー」になってしまいます。

補水(精製水の補充)の役割

鉛蓄電池の中には、「電解液」と呼ばれる硫酸を精製水で薄めた希硫酸が入っています。
この電解液が、放電と充電の化学反応を助ける重要な役割を果たしています。

充電終盤になると、余った電流が水を分解することで電解液が減ってしまいます

正極での反応

化学式:H₂O → ¹/₂O₂ + 2H⁺ + 2e⁻

  • 水(H₂O)が余った電流によって分解され、酸素(O₂)を発生させます。
  • 同時に、水素イオン(H⁺)と電子(e⁻)が生成されます。
  • 発生した酸素ガス(O₂)は気体として放出されます。

負極での反応

化学式:2H⁺ + 2e⁻ → H₂

  • 正極で生じた水素イオン(H⁺)が、電子(e⁻)と結合します。
  • 発生した水素ガス(H₂)は気体として放出されます。

充電の終盤では、水が電気分解され、酸素と水素の気体が発生します。

このため、化学反応に必要な水分量が減少するため、定期的な補水(精製水の補充)が必要です。

このようにして発生した酸素と水素は気体として外部に放出されるため、
充電回数を重ねることで電解液の水分量が減少していきます。

したがって、定期的な補水(=精製水の補充)が欠かせません。
補水を怠ると、極板の上部が空気に触れてしまい、焼け焦げてしまいます(空焚き)。
こうなると、化学反応そのものが起こらなくなり、バッテリーは二度と回復しません

補水の目安は週に1回程度です。
各セルのキャップを開け、白線が見える程度に精製水を補充しましょう。
水道水は不純物を含むため、必ず「精製水」を使うことが重要です。

鉛蓄電池を長持ちさせる3つのポイント

①過放電を避ける

バッテリー残量が 25%以下 (過放電)になる前に充電しましょう。
過放電は、サルフェーション(硫酸鉛の結晶化)を進行させます。

放電率と寿命の関係はおおよそ次の通りです:

  • 放電率50%で運用:約7年半(1800サイクル)
  • 放電率100%で運用:約3年(700サイクル)

出典:GSユアサ『電気車用鉛蓄電池 P.4「放電深さと寿命の関係」(2025.11.07)』

②こまめに充電する

「そんなに使っていないから大丈夫」と思って放置すると、内部では硫酸鉛が固着していきます。
使用頻度が少ない場合でも、3日に1回はフル充電を行いましょう。
充電によって付着した硫酸鉛を分解し、結晶化(サルフェーション)を防ぐことができます。

② 定期的に補水する

充電中に発生するガスによって電解液中の水分は少しずつ失われます。
液量が減ると極板が空気に触れ、焼け焦げて回復不能になります。

週1回を目安にキャップを開け、白線の位置まで精製水を補充しましょう。
※水道水は不純物を含むため、必ず「精製水」を使用してください。

バッテリーを「資産」として扱う意識を

鉛蓄電池は、鉛(Pb)・二酸化鉛(PbO₂)・希硫酸(H₂SO₄)という、非常にシンプルな素材でできています。
しかし、その内部では、電子のやり取りによる繊細な化学反応が絶えず行われています。

この反応を長く安定させるために大切なのは、次の3つの基本です。

  • 使いすぎない(過放電を避ける)
  • 充電を怠らない(定期的にフル充電を行う)
  • 補水を忘れない(精製水で適正な液量を保つ)

これらを徹底するだけで、バッテリー寿命は2倍以上延ばすことができます
バッテリーを「使い捨ての消耗品」ではなく、長く働く“資産”として扱うこと。
それこそが、現場の安定稼働とコスト削減の最も確実な方法です。

ご相談ください

IchouSystemは、フォークリフト、非常用電源、バイクや自動車などのバッテリー寿命延命装置の製造・販売を手掛けています。

2001年、沖縄県の電力会社様との共同研究で蓄電池再生技術を開発。この技術は高い効果が評価され、全国の電力会社様で採用されるに至りました。
私たちの製品には特許取得済みの独自技術を採用しており、その信頼性と独自性が国内で高く評価されています。特に物流業界や製造業界ではフォークリフトへの導入が進んでおり、バッテリー寿命の延長を通じて企業のコスト削減や運用効率の向上に大きく貢献しています。また、バッテリー交換の頻度を減らすことで廃棄物削減にも寄与し、持続可能な社会の実現にもつながっています。

バッテリー寿命延長や効率的な運用にご興味がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。皆様からのご質問やご相談をお待ちしております。